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横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)6号 判決

原告

石井一正

被告

大和市

右代表者市長

遠藤嘉一

右訴訟代理人弁護士

橋田宗明

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五八年七月一日付でした仮換地指定処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、原告所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を含む大和市渋谷地区に付いて、大和都市計画事業渋谷(北部地区)土地区画整理事業計画を決定し(以下「本件事業計画」という。)、昭和五八年七月一日付大渋指定第一四号をもつて、本件土地につき、仮換地の指定処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  そこで、原告は、訴外神奈川県知事(以下「県知事」という。)に対し、昭和五八年八月三〇日付で、審査請求をしたが、県知事は、その後、裁決をしていない。

3  しかし、本件処分は、次の理由により違法である。

(一) 本件事業計画の対象となる前記大和市渋谷地区の土地については、七八三五平方メートルに相当する測量増(いわゆる縄延び分。以下、単に「縄延び分」という。)があるところ、被告は、右縄延び分については、原告及びその他の権利者の財産権を奪うことのないように、かつ、公平に取り扱うべきである。

(二) 原告は、被告に対し、昭和五五年一二月一八日付陳情書(以下「陳情書」という。)で、本件土地の縄延び分に関して問い合わせをしたところ、被告は、同五六年二月三日付書面で、「隣地土地所有者との境界線について確定承認等が得られ、それが解決された時は、渋谷土地区画整理事業所へご連絡下さい。」等の回答をした。そこで、原告は被告に対し、同五八年一一月二九日付通知書(以下「通知書」という。)で、隣地土地所有者との境界が明確になつたことを通知したが、被告は同年一二月九日付書面で、「昭和五八年一〇月二六日横浜地方裁判所における判決のとおりであり、昭和五八年一一月一二日の経過により同判決が確定したことを申し添え、右回答します。」と回答するのみであり、本件土地の縄延び分について、実測、按分及び清算金等による調整ができること等を明確にしない。

(三) 更に、被告は、昭和五九年一〇月二六日付書面において、事業計画書に基づき、縄延び分は公共用地に充てられた旨明らかにした。

(四) しかしながら、被告は、原告の陳情書、通知書の内容について十分に調査したうえ、原告及びその他の権利者の意思を尊重すべきであるのみならず、縄延び分を公共用地に充てるには、実際の土地の価額に相当する代償又は清算金を交付すべきであるところ、これをせずに縄延び分を公共用地に充てたものであり、憲法上保障された財産権を不当に侵害することになり、かつ、公平に反する。

よつて、本件処分は無効であるといわなければならない。

(五) なお、原告は、昭和五九年六月二六日、被告を相手方として、横浜地方裁判所に対し、本件土地の縄延び分に関する被告の地積更正の手続についての説明が不明確であること及び手続上の内容の瑕疵等を理由に、本件処分の取消訴訟(昭和五九年(行ウ)第一九号仮換地指定処分取消請求事件。以下「別件取消訴訟」という。)を提起し、同事件は現在係属中である。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2項の事実はいずれも認める。

2(一)  同3項(一)は争う。

(二)  同項(二)の事実は認める。

被告が、原告主張の按分及び清算金の措置をとらなかつたのは、原告から地積更正の申請がされなかつたため、縄延び分が仮にあつたとしても基準地積に変更がなく、したがつて、右の点に言及する必要がなかつたからである。

(三)  同項(三)、(四)はいずれも争う。

被告は、本件処分を行うにつき、大和市計画事業渋谷(北部地区)土地区画整理事業施行に関する条例一五条以下において、基準地積の決定及び更正方法を明確に規定し、関係権利者に対し、実測に基づく縄延び分に伴う利益を要求することができるよう手続を設け、公平を期しているのであるから、本件処分に違法はない。

(四)  同(五)の事実は認める。

理由

一被告が、原告に対し、本件事業計画に基づき、昭和五八年七月一日付大渋指定第一四号をもつて、本件土地につき、本件処分をしたこと、原告が県知事に対し、同年八月三〇日付で、本件処分につき審査請求をしたこと、同知事が、現在に至るまで、右審査請求に対し、裁決をしていないこと及び原告が、被告を相手方として、同五九年六月二六日、本件処分の瑕疵を理由に別件取消訴訟を提起し、同取消訴訟が当裁判所に係属していることは当事者間に争いがないところ、原告が、同六〇年一月一七日、本件無効確認の訴えを提起したことは記録上明らかである。

右事実によれば、原告は、本件処分につき、行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間内に、当裁判所に別件取消訴訟を提起し、同訴訟が係属中、しかも右期間内に、更に本件訴えを提起したものというべきである。

二ところで、行政事件訴訟法三条二項所定の行政処分の取消訴訟は、およそその行政処分の瑕疵を理由として、当該処分の効力を失わしめる訴訟形態であり、同条四項所定の無効確認訴訟は、当該行政処分の瑕疵が重大であることなどを理由としてその効力が無効であることを確定する訴訟形態であるから、両訴訟は、いずれも当該行政処分についての瑕疵を理由としてその効力を争うという点には差異がなく、しかも、取消訴訟の場合には、当該行政処分の違法性の程度、主張立証責任及び判決の効力の点などにおいて、原告にとつて、無効確認訴訟に比し、はるかに有利であるのみならず、無効確認訴訟は、取消訴訟に関する出訴期間(同法一四条参照)を徒過し、あるいは、訴願前置(同法八条参照)を欠く場合において、その瑕疵の重大性等に鑑み、取消訴訟の例外として認められている訴訟形態である(同法三六条参照)うえ、行政処分に対する無効確認訴訟が当該処分の出訴期間内に提起された場合には、右無効確認請求のうちに、取消請求も包含されているものと解されている(最高裁判所昭和三二年(オ)第一八号、昭和三三年九月九日第三小法廷判決、民集一二巻一三号一九四九頁参照)ことに照らし、行政処分に対する取消訴訟が出訴期間内又は訴願手続を経て提起されている場合には、当該行政処分につき、更に、無効確認訴訟を提起する法的利益ないし必要性は乏しいものといわなければならない。

ところで、本件処分につき、別件取消訴訟が出訴期間内に提起され、次いで、本件無効確認の訴えが、しかも同期間内に提起されたことは前記のとおりであるうえ、本件処分では訴願前置の問題もないから、原告は、本件処分の無効確認を求める訴えの利益を欠くものであるといわざるを得ない。

三よつて、原告の本件訴えは、不適法であるから、その余の点につき判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古館清吾 裁判官橋本昇二 裁判官足立謙三)

別紙物件目録

所 在 神奈川県大和市福田字乙壱ノ区

地 番 二一〇四番一

地 目 畑

公簿上の地積 五八四平方メートル

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